今までの007作品で泣くことがあるとは思わなかった。エンドロールが流れた瞬間、「もう彼のボンドが見れないのか」と思うと寂しく感じ、その余韻に浸りたくなる映画は久しぶりだった。
実際、ダニエル・クレイグが演じたボンドは、他のどのボンドとも異なり、かっこよさやスマートさを保ちながらも、どこか親近感が湧く存在だった。なぜだろう?
あらすじ
ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かな生活を送っていた。しかし、CIAの旧友フィリックスから助けを求められ、平穏な日々は突如終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務は、予想を超える危険なものへと発展し、やがて、謎の黒幕が絡む壮大な事件に巻き込まれていく。
完璧すぎないチャーミングさを兼ね備えた初めてのボンド
ダニエル・クレイグの007シリーズは、単なるスパイアクションにとどまらず、ジェームズ・ボンドというキャラクターの成長物語として描かれている。
各作品がしっかりと繋がり、シリーズ全体でボンドの人物像がより深く、リアルに感じられるようになった。特に1作目から見ることで、彼がどうボンドというエージェントに成長したのか、また彼の人間的な側面が描かれ、単なるヒーロー像にとどまらず、深い魅力を持つキャラクターになった。
その過程では、幼少期のトラウマ、恋愛、大切な人との別れを経験し、完璧すぎない人間味のあるボンドが形作られていった。まるで一人の男の人生を見ているようで、リアルだからこそ目を離せない作品になったと言える。
本作を見る前に過去作を振り返り、再度この作品を見ることで、より深くその魅力を感じることができた。
女性が物語の主軸となった
これまでの007シリーズでは、女性キャラクターはどこかボンドの引き立て役として描かれてきた。しかし、ダニエル・クレイグのボンドシリーズでは、女性キャラクターが物語の中で重要な役割を果たしている。
例えば、レア・セドゥはボンドウーマンとして、ボンドの最愛の人として連続して登場し、今回はエージェント役としてボンドと並び立つ立場で描かれる。これにより、物語にリアリティが加わり、単なるスパイアクションではなく、感情的な深みも増した。
現代社会に合わせた女性像を描くことは、シリーズ全体の進化を示す要素となり、この点が作品のヒットにもつながったと言える。
主題歌と作品のマッチ
ビリー・アイリッシュの主題歌は、映画全体のトーンに完璧にマッチしている。
映画の冒頭で流れる楽曲は、映画を観た後にも何度でも聴きたくなるほどに深い印象を残す。歌詞の一つ一つが映画の物語と見事にリンクしており、視聴後にはその歌詞の重みが心に響く。
まとめ
見終わった瞬間、「もうダニエル・クレイグのボンドは見られないのか」と虚無感を覚えた。15年間という長い年月、彼のボンドを見続けてきたので、その終わりには大きな感慨を覚える。しかし、それと同時に、彼のボンドとしての成長と終焉を見届けられたことには達成感も感じた。
この映画を通して、1人の男の人生を描いたことに対する満足感を感じ、その終わり方に深い敬意を表したい。15年という集大成として、この作品ほど素晴らしいものはないだろう。
もし、まだ観ていない方がいれば、Amazonプライム・ビデオでの見放題やU-NEXTのレンタルを利用して、家でゆっくりとダニエル・クレイグの最後のボンドを堪能してほしい。