──「人生が迷走していたとき、このシリーズが自分を救ってくれた」
俳優・脚本家のサイモン・ペッグが、約20年にわたって出演してきた『ミッション:インポッシブル』シリーズとの別れ、そしてその作品が彼の人生に与えた大きな影響についてVARIETYに語った。
トム・クルーズ率いる“IMFチーム”の一員として8作に出演してきたペッグ。最新作『ミッション:インポッシブル/ザ・ファイナル・レコニング(原題)』はシリーズ最終章となる予定で、カンヌ映画祭での特別上映も決定している。

「このシリーズがなければ、今の自分はなかった」と話すペッグ。実際、彼がシリーズに参加したことは、俳優としてだけでなく人間としても大きな転機となったという。
「2005年に初めて出演した時、僕は“夢が叶った”ような状況だった。でも、実際には心の中は空っぽで、重度のうつ状態だったんです」
ペッグは当時、アルコール依存と闘っていた。単なる“酒好き”ではなく、「感覚に依存していた」と振り返る。初日の撮影後、彼はホテルのバーに直行したという。「自己破壊的な衝動でした」
しかし、シリーズ第4作『ゴースト・プロトコル』(2011年)で役が拡大され、クルーズとともに本格的なアクションの現場に身を置くことで、彼は変わり始めた。
「撮影中、制作チームが“ソーバー・コンパニオン”(断酒サポートの専門スタッフ)をつけてくれて、本当に支えてくれたんです。J・J・エイブラムスとブラッド・バード監督には心から感謝しています」
クルーズも「君はもうエージェントなんだ。身体を鍛えるぞ!」と励ましてくれたという。以来ペッグは健康志向に目覚め、現在は2010年から断酒を続けている。

シリーズとの別れは、華やかなクライマックスではなかった。最後の撮影は「ただ車に座っているだけのシーンだった」と語るペッグ。しかし彼にとっては、長年苦楽を共にした仲間たちとの別れでもあり、「胸が熱くなった」という。
また、ペッグはプライベートでもクルーズとの親交を続けており、毎年クリスマスにはクルーズから有名な“ココナッツケーキ”が届くという。今年も十代の娘宛てにジンジャーブレッドハウスが贈られてきたが、「彼はまだ娘のことを小さな子供だと思ってるんだと思う」と苦笑い。
現在のペッグは、次なるキャリアに向けて動き出している。初監督作の準備や、原作ものの映画化プロジェクトにも取り組んでおり、「もうフランチャイズには当分参加しないつもり」と明かす。
「『ミッション:インポッシブル』は数年ごとに1本という絶妙なペースだった。でも今の大作フランチャイズは、他人の映画にカメオ出演したり、世界観に縛られたりと大変なんですよね」
また、長年の盟友であるニック・フロスト、エドガー・ライトとの新作も進行中。「次にエドガーと一緒に映画を撮るまで、他のコメディはやらないと彼に約束してるんだ」と笑う。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』の続編を望む声も多いが、「あの作品にはしっかりとした始まりと終わりがある。続編を作ることで、逆にオリジナルの価値を下げてしまうかもしれない」と語り、否定的な姿勢を示した。
過去の自分を肯定しながらも、新しい挑戦に向かっているサイモン・ペッグ。彼が“救われた”と語る『ミッション:インポッシブル』という舞台が、どれだけ彼の人生にとって大切だったかが、言葉の端々から伝わってくる。